はじめに:新人教育を受けていないまま働く不安、あなたにもありませんか?
看護師の仕事は、知識や技術だけでなく、人の命に直接関わる責任の重い専門職です。
そのため、現場での判断力や処置の優先順位、緊急時の対応力などは、新人教育の中でしっかりと身につけておくべき重要なスキルです。座学だけでは学びきれない“実践力”を育てる新人教育は、まさに看護師人生の土台づくりとも言えるでしょう。
ですが、すべての看護師が十分な新人教育を受けられるわけではありません。
私もその一人でした。妊娠・出産・子育てを経て、看護師としてのキャリアを断続的に歩んできた私は、実質的に新人教育を受けないまま、現場に立つことになったのです。
この記事では、そんな私のリアルな転職体験を通して、
「ブランクがある」
「経験が浅い」
そんな不安を抱える方に向けて、少しでも前を向けるヒントをお伝えできたらと思います。
「新人教育がないとやっていけない?」
「ブランクがあると、もう戻れない?」
そんな不安に、私の体験談が寄り添えますように。
経験ゼロで挑んだ療養病棟の現場
出産と育児に集中していた数年間を経て、生活とキャリアのバランスを取るため、私は再び看護師として働くことを決意しました。
最初に選んだのは、比較的落ち着いた印象のある療養病棟。けれども、私には病棟での実務経験も、新人教育のバックアップもほとんどありませんでした。
そんな状態で現場に戻った私は、毎日が不安でいっぱい。少しの判断ミスが大きなトラブルにつながるのではないかと、常に緊張しながら仕事をしていました。夜も仕事のことが頭から離れず、なかなか眠れない日々。
それでも、同じように子育て中のママナースたちが多く働いている職場だったことに、私は救われました。
「お互いさま」
と声をかけ合い、忙しい中でも助け合える雰囲気の中で、少しずつ安心感を取り戻していったのです。
とはいえ、すべてが順風満帆だったわけではありません。中には厳しい言葉をかけてくる先輩や、経験の浅さを小馬鹿にするような態度の同僚もいました。
ある日「向いてないんじゃない?」と突き放され、帰宅して泣いたこともありました。
それでも、「ここで諦めたらもう自信をなくす」と自分に言い聞かせ、懸命に食らいついていきました。
療養病棟は急変の少ない環境である一方、技術的なスキルアップの場としては限られているのも事実。処置の機会も少なく、日々の業務がルーチン化しやすいことに物足りなさを感じることもありました。
実践しないと、どんなに勉強しても技術は身につかない。
この言葉の重みを痛感する日々。それでも、目の前の仕事をひとつずつ丁寧にこなすことで、自分なりに看護師としての軸を少しずつ立てていきました。
認知症の患者さんとのやりとりでは、言葉ではなく表情やしぐさで気持ちが通じる瞬間がありました。そんな小さなつながりが、私にとって大きな自信になっていったのです。
肉体的にはかなり厳しく、大柄な患者さんの介助や夜勤などで体力的には限界を感じることも。精神的にもギリギリの中、それでも「看護師であることが好き」という気持ちだけはなくなりませんでした。
数年後、2人目の妊娠が分かり、家庭との両立を考え退職。次の職場へと向かうことになります。
条件だけでは測れない「働く環境」──特養での心の傷
2人目の出産を経て、再び復職を目指すことに。
今回重視したのは「託児所あり」「時短勤務OK」という子育てとの両立が可能な条件でした。
紹介されたのは特別養護老人ホーム(特養)。面接時の雰囲気もよく、子育て中のスタッフも多いという話に安心して入職を決めました。
ところが、その安心は入職して間もなく崩れました。
ある先輩が徐々に私への態度を冷たくしていき、無視や嫌味、必要な情報を教えてもらえないなどの対応が続くようになったのです。
「あなた、本当に看護師なの?」そんな言葉に心がえぐられました。
質問しても突き放され、自信はどんどん失われていきました。いつの間にか、出勤前に胃が痛くなり、夜は眠れず、朝は泣きながら出勤準備をする毎日へと変わっていきました。

いじめた側は忘れても、いじめられた側はずっと覚えている。
あとから聞いた話では、その先輩も心の病を抱えていたようですが、当時の私はただ「自分が悪い」と思い込み、限界まで耐えてしまいました。
そして、ある日仕事に行くため、準備をするもなかなか進まない。
車で通勤していたのですが、駐車場についても車から降りることができませんでした。
その日を境に「もう無理」と感じて退職を決意。
退職後はしばらく、何も手につかず。自信も気力も失ってしまい、「もう看護師として働くのは無理かもしれない」とすら思いました。
おわりに:やる気があれば、道は開ける
もし今、あなたが職場でのいじめや人間関係、キャリアの先行きに悩んでいるのなら、ひとりで抱え込まず、まずは「頼れる窓口」があることを知ってください。
私自身、そういった相談窓口の存在を知らず、ただひたすら一人で悩み続けてしまった過去があります。だからこそ、
「あなたが悪いわけじゃない」
「相談できる場所はある」
ということを、今のあなたに伝えたいです。
相談窓口の一覧はこの記事の最後にまとめています。どうか、一度だけでも目を通してみてください。
今回ご紹介した2つの転職経験は、それぞれ私にとって大きな学びとなりました。
療養病棟では、「経験が浅くても、自分なりに努力すれば道は開ける」と感じました。
特養では、「条件が良くても、人間関係の悪さは長く働けない要因になる」ことを痛感しました。
「辞めることは逃げじゃない。無理をする前に、自分を守っていい。」
今では、心からそう言えます。
ブランクがあっても、新人教育を受けていなくても、あなたの思いや経験が誰かの力になる日がきっと来ます。自分を責めすぎず、少しずつ、自分のペースで進んでいきましょう。
次回予告
次回は、転職経験のなかでも特に大きな挑戦となった「2次救急の中核病院」での勤務について綴ります。スピードと判断力が求められる急性期の現場に挑んだときの体験を、ぜひお楽しみに。
参考リンク
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